ありのままの田舎暮らし
第8話 蛇口をひねって夫婦仲直りの巻
--知っておきたい田舎暮らしのトラブル--
田舎暮らしは何から何まで全て楽しいことばかりではなく、移住前には思いもよらなかったトラブルに見舞われたり、あるいは予想以上に不便なことに困惑するといったことがあります。そうした田舎暮らしにまつわる負の側面にも触れておかなければならないでしょう。
今回はその第1回目、生活編です。
<文明の利器は困り者>
私たち夫婦にとって一番つらいことは、電話回線がアナログであることです。ADSLや光回線どころか、ISDNさえ繋げず、結果として事実上インターネットが使えません。
一応繋がることは繋がっているのですが、メールに少し大きい写真が入っていると受信に数十分かかってしまったりパソコンがフリーズしたりします。ネットも1枚1枚画面が変わるのをディスプレーの前で延々と待たなくてはなりません。
そんな状況ですのでネットサーフィンや最近流行りだした映画の配信など望むべくもありません。ネットは生活の一部、不可欠となっている方は移住前に電話回線の確認が必要です。
なおアナログ回線ですとその後もさまざまなトラブルが待ち受けています。
都市部で使っていたコンピュータや新しいデスクトップなどはそのままでは使えずアナログ用のモデムを用意しなくてはなりません。しかし、今時アナログモデムを取り扱うところは少なく取り寄せもスムーズにいかない場合があります。
加えて、山間部では落雷、停電が多くちょっとした過電流でモデムやその周辺部品がこわれますのでその対策も必要になります。私たちもモデムが壊れる度それなりの対策を講じてきているのですが、今までコンピュータ関係で右往左往しなかった夏はありません。もちろん今年の夏もやられました。
なお、あまり山奥ですと電気を引いてもらえないことがあります。詳しく分からないので申し訳ないのですが、通常電気を引くのは無料ですが、一番近い電柱から一定の距離を超えると有料で、その場合の工事費負担がかなりの額になるとのことです。
携帯電話も圏外ということがあります。ここは数年前となりの村に電波塔が立てられましたので我が家でもアンテナをつければ繋がるそうです。テレビも裏山にアンテナを2本立てていますが、地上波の受信状況は最悪で映ったり映らなかったりです。
<雨が降れば体力づくり>
私たちにとって大きな悩みの2つめは道の補修です。舗装された町道に出るまで800メートルほど砂利道があるのですが、この砂利が雨が降るたび流されるのです。
「道」は山の地形の中では「溝」です。川に水が集まるのと同じ原理で道が水を集め、台風やちょっとした大雨で道に多量の水が流れます。アスファルトを敷けば砂利の流出は解決しますがそれには費用がかかり、その高額な費用負担ができない場合は、道を横断するように排水溝を掘るしかありません。U字溝を入れその周りをコンクリで固め蓋をするのですが、これも素人の手作業でできることではなく、私たちの場合は1本8〜10万円ほどで3本の排水溝を業者に作ってもらいました。
U字溝があるのと無いのでは大違いで、以後流される砂利の量は大幅に減りましたが、所詮は対処療法に過ぎませんのでときどきデコボコになった道の補修をしています。
町道、村道でもほとんど舗装されていますので、新しく家を探す場合はそうした道沿いの家をお勧めします。
<裏山がうらめしい>
この他、予想以上だったのが夏場のカビです。田舎の家というと北側に裏山を背負うことが多くなっていますが、この裏山の木々が放つ水蒸気が湿気となって下りてきて家をじっとりと湿らせます。
私たちはそれを知らなかったために大きな失敗をしました。家の補修をする際、家の北側の壁に使われていた板が腐り崩壊状態でしたので、修理するのではなく新しく作り直すことにしたのですが、その時窓を作らずすべて壁にしてしまったのです。
結果として家の中に風の通らない部分が多くなってしまいました。それも特に湿気の強い北側に。カビの繁殖力は猛烈です。しかも何か特定のものだけがかびるというのではなく、金属以外家の中にあるものすべてがかびるのです。食器棚も床もたたみもふとんも。
夏場は常に家中掃除するほか、除湿機をかけ、さらに布団や洗濯済みの衣類なども毎日のように日に当てなくてはなりません。
いきなり家を新築することはお勧めしていないのですが、もし家を建てられるときは、裏山から離すこと、床下の換気に配慮することが不可欠です。
<寒すぎる>
冬場の寒さも覚悟していた以上でした。標高600メートルを超える山の中の寒さは、都会でしか暮らしたことの無い私たちには強烈でした。
新しい家であればさまざまな防寒対策がほどこされているのでしょうが、古い民家には家全体を温めるといった考えがありません。こうした家屋では暖房機器が切られた後、すなわち私たちの就寝後際限なく冷え込みます。朝起きると家の中も氷点下、全てのものが凍り付いているのが当たり前になります。
こうした寒さでもっとも困ることが水回りの凍結です。水道管にはすべてヒーターを巻いているのですが、それでもさまざまなトラブルが発生します。
はじめは風呂場の蛇口でした。蛇口にはヒーターを巻けませんのでその代わりに水抜きがついているのですが、この水抜きを忘れたところ凍結、破損し、付けたばかりのシャワー混合栓を交換しなければなりませんでした。以後蛇口回りにもヒーターを巻きつけています。
またヒーターの電源を入れ忘れたために泣きをみたこともありました。
初めての冬を迎えた時のこと、屋外のヒーターのコンセントを全部つないで「これでよし!」と安堵したのもつかの間、1箇所だけコンセントを入れ忘れているところがあったのです。それは家の中、洗濯機に接続している水道管のヒーターです。
冷え込みが強まりはじめたある朝、台所の蛇口から水が出なくなり、あわてふためいて調べてみて差し込まれていないコンセントを発見した時のショックは言葉にできません。
家の裏に埋設した水道管を掘り出して、破損した部分を切り離し、新しい水道管を接続します。次に接着剤が固まるのを待ってヒーターや保温材などのテープを巻きつけ、水漏れが無いことを確認してから土をかけます。泥まみれの面倒な作業ですが、不幸中の幸いだったのは破損部分が家の中の水道管でなかったことです。家の中でしたら壁を壊さない限り交換はできません。
さらに倉庫として購入したプレハブが水浸しになったこともあります。倉庫で水を使うことが無いので、村役場に連絡して水を止めてもらったのですが、元栓を締めたはずがなんらかの手違いで締まっていなかったのです。
それは忘れもしない、こちらに移って初めての年明け。実家で正月を過ごし、でっぷりと太ってもどって来たときのことです。
いつものように倉庫に行った私は驚きのあまり絶句しました。破裂した水道管(蛇口の部分)から水がシャワーのように吹き出ていて倉庫水浸し。涙。
この他にも小さなトラブルは多々ありましたが、それも少しずつ乗り越えてきました。
今は悩むことも徐々に少なくなってきたように思っています。知識があれば困らないことも多いので、移住を希望する方は先に移り住んだ人達にどのような困難が待ち受けているかあらかじめ聞いておくことが絶対に必要です。
私達の家は裏山に湧き出る水を引いて生活用水に使っています。ある日、この水がまったく出なくなったことがありました。
生活に支障があるばかりか、我が家の収入源であるパン焼きもできません。水道管が破裂していればもう一度水道管の掘り起こしと敷設をやらなければなりません。スコップで硬い土を延々と掘り起こしている姿を想像すると心臓が高鳴り冷や汗が出ました。
あわてて裏山にのぼり受水槽を確認するとからっぽ。
水源まで遡ってみると湧き水はこんこんと出ていて受水桝の中は沢ガニの楽園状態でした。
途中のパイプに原因があると思い、パイプを手繰るように見て行ってジョイントが外れていたのを発見した時の安堵感! ジョイントをつないで受水槽に水が流れた時の喜び! 家に戻って蛇口をひねって水が出た時の感激! 夫婦二人で手を取りあって喜びました。
こちらに来るまで蛇口をひねって水が出て感激したことは一度もありません。都会では絶対に味わえない数々の感動が田舎では待っています。
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