ありのままの田舎暮らし

2009.01.17

第14話 私はりっぱなネズミ捕りの巻

里山の味 天然工房

--ヘビよ、ネズミよ、ごめんなさいー

 2004年の夏、現在の家となっている空家を下見に来た時一番驚いたこと、それは朽ち果てる寸前の廃屋のボロさではなく、ヘビの多さでした。
 とにかくあっちもこっちもヘビだらけ、家に続く砂利道を歩けば左右の縁から藪の中に何匹もがにょろにょろと逃げて行き、雑草の中に入れば1歩足を踏み出すたびにガサガサっと音がして黒っぽいシッポが草葉の陰に隠れていくのが見えます。
 人の足が入らなくなってすでに7年、あちこちから水が湧き出ている敷地内でヘビたちが大繁殖していたのです。


 一番多いのはやはりヤマカガシ。猛毒を持つヘビですが性格はいたって温厚でまず事故をおこすことがないため長いこと無毒と思われていたとか。
 ただ、移り住んだ直後のこと、突然天井からなにやら大きなものが私の耳をかすめて肩にドサッと落ちてきたことがありました。

 落ちてきたものとは1メートルほどの大きなヤマカガシ。向こうも驚いたかも知れませんが、私も心臓が飛び出るくらい驚きました。いくらおとなしいとはいってもこうした時へたをすればかまれるのかもしれません。
 しかし、それにしてもどうして天井から落ちてくるのでしょう。梁のふちを這ってジャンプしたとしか思えないのですが、それともヘビは天井を逆さに這えるのでしょうか。本当に不思議です。
 今でこそ少なくなりましたがこの事件後しばらくは1日に幾度も天井を見たものです。


 ヤマカガシについで多いのがシマヘビで、地元ではカラスヘビと呼んでいるのですが黒化した個体を頻繁に目にします。黒化する比率はそう多くはないと聞いたことがありますので少ない遺伝子が集中する珍しい地域なのかもしれません。
 大型の青大将もいるのですが、隠れるのがうまいのか目にすることはほとんどなく抜け殻の方が目立ちます。
 田舎暮らしの注意点として必ず挙げられるマムシはここでは多くはなくこちらに来てから一度も遭遇していません。
 マムシに咬まれないコツは、草むらをそっと歩くのではなくガサガサと音をたてて歩くことと地元の方に教えてもらいました。よくマムシは逃げないともいわれるのですがやはり大きな音がすれば他のヘビ同様に逃げていくのでしょう。

 移り住む前はこうしたヘビたちと共棲していかなくてはならないことを覚悟していたのですが、それは杞憂に過ぎませんでした。
 私達が移り住み、同時に犬とネコたちが家の周囲を駆け回るようになると彼らは立ち去り、その姿を見ることはめっきり減りました。


 私達が移ってきて一番大きな受難を被ったのが山のネズミ達です。我が家の猫たちが山に入って彼らを捕食してしまうのです。
 この猫たち、満腹の時なのでしょうか、しばしばネズミを生きたままくわえて戻ってきて家の中で放して追いかけ、捕まえてはまた逃がすといったゲームを繰り広げます。
 この時パニックになるのは哀れなネズミだけではありません。妻と私もネズミと一緒にパニックに陥り、大声を張り上げながらネコと争って家中走り回ってネズミを追いかけます。
 ちなみに妻と私がネズミを追いかける理由は捕って食べるためではなく、山に返すためです。

 このネズミの捕り物帳はネコが夜ハンティングをするため、たいていは真夜中に起こります。寝ていると頭の上を猫たちがドドドドドッと走り回り、それをきっかけに大騒動が始まるわけです。
 ちなみにネズミを捕るコツは、ネズミを掘りごたつに誘導すること。本棚やたんすの裏に逃げ込んだネズミを追い出してコタツに落とせば人間の勝利、袋のネズミではなくコタツのネズミはもう逃げ場がありません。


 ようやくのことでネズミを捕まえれば「ニャオーン!」いや、もとい、「やったあ!」とおもわず雄たけびをあげガッツポーズです。
 しかし、深夜、パジャマ姿で息を切らしてネコと張り合ってネズミを追いかけることになるとは。こうした事態を移住前にはまったく想定していませんでした。

 ネコのようにネズミを捕るようになってつくづく思ったのは、ネズミに対して誤った先入観を持っていたということです。
 都会ではドブネズミか大きなクマネズミが一般的で、なにやら汚くて病原菌を撒き散らしているといった印象が強いのですが、それは山ネズミにはまったく当てはまりません。彼らはじつにかわいらしい。目が大きいのでたぶんアカネズミという種だと思います。
 また小さいのもいて、はじめの頃はアカネズミの赤ちゃんかと思っていたのですが、ヒメネズミという別の種かもしれません。
 とにかく、不潔感はまったくなく、特にヒメネズミは手のひらに乗ってしまうほど小さくて、まんまるでつぶらな瞳。ネズミに対する偏見はすぐに払拭されました。山に放してやってもすばしっこさはなくちょろちょろとやぶの中に逃げていきます。


 なにやら私たち人間のはるか以前のご先祖さまを見るようでこんな小さくか弱い生物が恐竜時代を生き抜いてきたのかと感慨もひとしおです。

 ネズミとは逆に、私達が移住したことの恩恵を一番受けているのがカエルたちです。
 私達が移ったことによって多くの生物達に迷惑をかけたのは事実ですので、せめてものお詫びと湿地を掘り起こし、小さいながら水溜りを作りました。これはちょっとしたビオトープ、特にカエルたちには居心地の良い繁殖地となったはずです。
 また、捕食者であるヘビが激減しましたので、天寿をまっとうするカエルも相当数増えたのでしょう。かくして小指の先ほどの小型のものから大型のヒキガエルまで多種多様なカエルが生息するようになりました。
 今ではヘビの代わりにカエルがあちこちで跳ね回り、真夏の夜には窓に貼り付き、明かりに誘われて寄ってくる羽虫をパクパクとたべています。


 この湿地にはイモリ、サワガニ、ヤゴその他多くの生物が生息しています。タガメが泳いでいるのも見ることができます。
 また直接眼にすることはめったにないのですがキツネもここら辺を縄張りとしています。彼らがしっかりと生きていることを冬の積雪を通じて知ることができます。キツネは右足を左に寄せて、左足を右に寄せて歩きますので、左右の足の接地ポイントが重なりあたかも前足一本、後足一本で歩いたかのような跡を雪の上に残すのです。
 雪が積もった朝は野うさぎやキツネの足跡がたくさんあって、それが彼らの生息を主張しています。
 昨日も雪の上にキツネと野ウサギの足跡がありました。双方の足跡が乱れていなかったのは、実は野ウサギとキツネが遭遇していないためか、あるいは野ウサギがうまく逃げることができたためか、それともいとも簡単にキツネが野ウサギを捕まえてしまったためなのか、深夜に繰り広げられる動物達の営みを私は頭の中に描きます。

 ここでは都会とは比べようのないくらい多くの生物を目にするのですが、それでもそれはほんの一部に過ぎず、私の想像を絶するほどの多くの生物がこのエリアでその生の営みを行っているのでしょう。


 前回、私達夫婦は可能な限り化学物質を排除した生活をしているとレポートしましたが、それは単に私達の健康のためだけではありません。
 私達夫婦の生活排水はビオトープとした湿地や敷地内に流れ込みます。そこにはさまざまな生物が生きている、そうであれば、排水の中に自然界には有り得ない物質を流してはいけないと実感するのです。
 この地球に生きているのは人間だけではありません。そうであれば彼らの生息地を汚してはいけないと心からそう思うのです。

 もし多くの日本人が都会から離れて自然環境豊かな中で生活すれば、おそらく自然との一体感を体感することができるのだろうと信じています。
 人間も自然の中で生きていくのが自然であって、自然界の多くの生物と同じように地球に生息する生物の単なる一種にすぎないこと、他の生物達との相互の関連の中でしか生きていけないこと、そうした感覚を体で受け止めることができれば、そこから都会の生活とは違った新しい価値観が生まれてくると思うのです。
 私達がこの先も永遠に安心して生きていける知恵を発見する、その方向性が見えてくると。

 都会の生活は生物としての理性、自然な感性を喪失させてしまうのではないでしょうか。

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